もうひとつのハチイチ全日本選手権

FILE 11〜「サーキット破り」参戦記

宿敵TOM選手には絶対負けられない!という気持ちの表れからか、いや、いつもどんなレースでも手を抜いたり、妥協することなく、常に持てる力を全て出してレースに挑むトシゾー店長は、コースオープンの合図とともに、真っ先にコースインする。Bメイン決勝終了から1時間30分ほど経過していたから、路面の状況も大きく変わっているに違いない。限られたウオーミングアップ走行の時間内で、路面に合わせたセット、そしてベストなニードル位置を探るべく、幾度となくピットインするトシゾー店長。「上を5分絞れ!」「下を5分絞れ!」「下を2分開けろ!」と細かい指示が出る。私は指示通りにニードルを合わせ、再びコースに復帰させる。

日頃、ギャラリーとして見ていると長く感じるウオーミングアップ走行も、ピットクルーとして見ると、すごく短く感じた。果たしてトシゾー店長の思い通りのニードルに合わせることができたのか!?いよいよレースがスタートする。7番GRIDに移動し、スタートの合図を待つ…。全車一斉にスタート!の直後。1コーナー付近で多重クラッシュが!

しかし卓越した動態視力を持ち、加えて百戦錬磨のトシゾー店長は、その混乱を避け、1周目は4位?と順位を上げ、コントロールラインを通過する。私たちがマークしていたTOM選手はスタートに失敗し、下位で1周目をクリアする。その後、両者は順位を上げ、3分過ぎにはトシゾー店長はトップ、TOM氏は2番手となり、二人の一騎打ちという展開へと変わっていった。そして迎えた5分前、タイムキーパーであるKoちゃんからの指示を受け、TOPを走るトシゾー店長にピットインを伝える。私はGUNに燃料を充填する。その時、トシゾー店長がまさかの転倒!救出に走ったが、マーシャルがコースに復帰させ、そのまま給油のためにピットレーンに入ってくる。私は途中まで行ってたが、慌てて戻り、給油を行う。その間にTOM選手は労せずTOPに踊り出る!

このレースでまず気をつけたこと。確実に車を掴んで、GUNを給油口にあわせ、燃料をこぼさないように給油すること。そして車をピットレーンに置くときも、すばやく、真っ直ぐにピット出口に向けて車を置き、すばやくロールバーから手を離すことを心掛けた。

Aメイン決勝1回目の給油は、慌てていたにも関わらず2秒後半くらいで給油を終えた。その結果、1周近く開いていたトップTOM選手との差も、給油によって9秒差まで縮めたのだ!。その後、徐々にTOM選手との差を縮めるトシゾー店長。ベストラップも14秒中盤をマークし、2回目の給油前には7秒差まで縮めてきた。

Koちゃんから指示を受け、トシゾー店長に2回目の給油を伝える。そのトシゾー店長がピットに入ってきた。Dメイン決勝から通じて7回目の給油ということもあり、トシゾー店長との呼吸も合ってきた。私は低い体勢で右手を伸ばし、車を待つ。トシゾー店長はきっちり私の目の前で、一番取りやすい位置に止めてくれる。掴みやすかったということもあるが、すばやく給油を終え、ピットに車を置くと同時にトシゾー店長は車を発進!ピットインから給油、そしてピットアウトまでのトータルタイムでも他チームを大きく引き離す!トップを走るTOM選手との差は7秒差から一気に3秒差まで縮まった!

「よっしゃぁ〜!これは行ける!行けるでぃ!このまま行けば、次の給油で逆転できる!」と私はもちろん、タイムキーパーのKoちゃんもそう思ったに違いない。

トップを走るTOM選手のアベレージは速い!しかしトシゾー店長は更に速いアベレージで、徐々にではあるがTOM選手との差を詰めてくる!そして13分過ぎにはついに2秒差。そして14分過ぎには背後まで迫ってきた。私はトシゾー店長をトップに立たせるべく、最後の給油に向け、GUNに燃料を充填する。しかし、最後の給油を前にして、不慮のアクシデントによりリタイヤとなってしまったトシゾー店長。予想だにしない幕切れとなったハチイチAメイン決勝レース。しかし結果は結果。その結果を真摯に受け止め、今回のできごとは、全日本選手権にピットクルーとして参戦する私にとって、とても貴重な経験となった。ピットクルーとしてしなければならないこと、あるべき姿がカタチとして見えてきた。

これまで給油だけの練習を重ねてきた私であるが、給油だけがピットクルーの仕事ではない。車の動きを観察しながら、ニードルをどうすればいいか?あるいはキャンバーやトー角、スタビの角度調整、ダンパーを立てるか、寝かすか?ドライバーが感じることと、ピットクルーが感じることを情報としてお互いに出し合い、セットを煮詰めていければ、それがタイムを縮めるための一番の近道ではなかろうか?さらには的確にレース状況を伝えることもピットクルーの大切な役目。ある意味、レースを組み立てるのは、ドライバーではなくピットクルーなのかも知れない。

給油のスペシャリストにとどまらず、真のピットクルーに進化するべく、残された日数を精一杯がんばろうと決意を新たにした私であった・・・。


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