予選前日となった8月22日(木)。私はGUN-Boyスタイルで選手とともに6時30分過ぎにBOSS
SPEEDに到着した。8月1・2日と事前に練習に来ていたので、サーキットの状況はすでに把握できている。各選手の荷物が下ろし終わったところで、早速、トシゾー店長に呼ばれた。「タイヤを削るのを手伝ってくれん!?」。
この日の練習と明日からの予選で使用するタイヤをトシゾー店長がチョイス。2台のタイヤセッターを使って、私がフロントタイヤ、トシゾー店長がリヤタイヤを削っていく。
しかし、ただ削ればいいというものではない。自分が使うタイヤならまだしも、トシゾー店長が使うタイヤとなれば、すごく神経を使う。あらかじめ削った後のタイヤ径は聞いていたが、それにあわせるために一苦労。コンマ1ミリでも違ってはならないと思い、慎重にデジタルノギスで削ったあとのタイヤを測りながらタイヤ径をあわせていく。削り終わったタイヤの角を、ヤスリで整えるのも神経を使った。トシゾー店長の指示通りに、丁寧にヤスリを当てながら、タイヤを作っていく。そうこうしているうちに、「ほんなり、リヤタイヤも頼むわ!」とトシゾー店長がいなくなった。
一人残された私は、残された山ほどのタイヤを黙々と削る。でもこれもピットクルーとして、大切な役目。1セットや2セット程度を削るならまだしも、フロントとリヤあわせて相当な本数削るとなれば、相当な時間がかかる。事実、全てのタイヤを削り終えたのは、8時を回っていたのだ。
ただ時間がかかる作業をピットクルーである私が代わってしたのではない。車のセットやエンジンの調整と同等、あるいはそれ以上に重要なタイヤを削るということは、本当だったら他人には任せられない重要な作業のひとつだと思う。それを私に任せてくれたということは、トシゾー店長が私のことを信頼してくれている表れでもある(と思いたい)。だから、タイヤ削りをやらされたとは、これぽっちも思っていないし、逆に誇りに思えることなのだ。
8月はじめにBOSSに練習に行ったとき、トシゾー店長が私に言った言葉。
「オレの鼓動を感じてほしい!」。
別に変な意味ではなく、用はドライバーの気持ちをピットクルーである私が汲み取り、コントロールタワーで操縦しているときだけに限らず、常に「あ・うん」の呼吸というか、二人の意思の疎通が大切であり、ましてやお互いの信頼関係が成り立っていなければ、絶妙なコンビネーションを図ることはできない。そしてそこには、主従の関係ではなく、ドライバーとピットクルーとが同等の立場でいることも重要なこと。
名のなるドライバーのそばには、長年連れ添ってきた優秀なメカニックやピットクルーたちがいる。その関係は夫婦以上の信頼関係で結ばれていると私は思う。冗談で「あんたの鼓動を感じるためには、一緒に住んで寝起きをともにせんといけんじゃん!」なんて言った私であるが、事実、マイケル・サルベンは、メカニック(?)と一緒に生活しているとか・・・。
急造ピットクルーの私であるが、全日本選手権で、トシゾー店長はじめ、九州から出場する選手のピットクルーをしようと思った理由のひとつに、私はみんなを知っているということがあった。これまでKawasemi.Jrではもちろん、各地のレースに一緒に参戦した中で、ある程度の選手個人の性格は、わかっていたし、まあ、私だったらみんな気兼ねすることなく、ピット作業をやってほしい!と言ってくれるだろうと思ったから。
「オレに気兼ねせんで、ガンガン練習しちくんなぁ〜!」とは口には出さなかったが、走ろうとする選手がいたら、自分からそばに行って、車を持ってピットに移動し、みんなのピットクルーを勤めた。そんな私に対し、選手たちは気兼ねすることなく、ガンガン走り込みを重ねる。「あんたらなぁ〜、ちょっとは遠慮しやがれ!(苦笑)」と言いたくなった時もあるくらい、翌日から始まる予選に向け、選手たちは準備を重ねていった。
私は私で、入れ替わり、立ち替わり、コントロールタワーに立つ選手たちのピットクルーをすることで、その選手との呼吸を確かめることができた。エンジンをかけ、ピットレーンに置くタイミングや、ニードル調整、そして給油など、ドライバーが望むリズムをつかむべく、自ら望んでピットの中にいた。
目の回るような一日を過ごしたのは、私だけではなかった。この日から合流した、関西の内燃機関屋さんも、私以上に選手たちのエンジン調整に飛び回っていた。
日没となり、荷物を片付け、サーキットを後にした帰り道、ラーメンセットを食べながら飲んだビールのうまいこと!ホテルに帰り、シャワーを浴びて、この日も爆睡した私であったが、内燃機関屋さんは、予選に向け、ほとんど徹夜でエンジンのメンテをしていたのだ。それも全て、ドライバーたちに、ベストな状態でレースに臨んでもらいたいという思いがあるからこそ。
こうして、いよいよ予選初日を迎えるのであった・・・。
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