いよいよ決勝レース当日の朝を迎えた。疲れはピークを通り越しているものの、そんなことは言ってられない。泣いても笑っても、ドイツでプロポを握れるのは今日が最後なのだから。バスルームで、いつもより入念に頭を剃る。ドイツに来て毎日やってきたことだけど、気持ちを込めて、丁寧に剃る。部屋に帰るとトシゾー店長が起きていた。
「ケンケンケン・ケンジロー!とうとう決勝レースの日で!どげぇな?ところじ、あんたまた、きれいに剃っちょるなぇ!」「あんたなぁ、人のことより、自分のことじゃろが!オレたちのことはいいから、自分のこと、しゃんとしなあぇ!」「あんたなぁ、オレは一晩寝たらもう大丈夫で!もう心配いらんで!」
トシゾー店長の速さの秘密はここにもある。前日は、それはもう半径3mくらいまで近寄ると、やけどしそうなくらいカッカしていたヤツであるが、一晩寝たら、もう全て忘れ、すっかり元通りになっていた。そうした気持ちの切り替えの速さも、レースではとっても重要なことかもしれない。いつまでも失敗や反省、後悔したって始まらない。そんな気持ちを引きずったままレースに望んでも、結果は見えているし、気持ちで負けている以上、それ以上の結果は望めないのだ。私がこうして、1ケ月も前のことを、こと細かく覚えていること自体、レースでいつもトラぶっている原因かも。「参戦記やめようかなぁ・・・」とは思わないけど、もう少し神経質すぎる性格をどうにかしないとなぁ・・・。
クリーニングできたばかりのチームJapanのポロシャツに着替え、頭には真っ赤なバンダナ。いつもどおりの食事を取り、tamaさんを加えたチームJapanがサーキットに乗り込む。
決勝レースに向けてしなければならないこと。プロポ・インパウンド前に入念なサーボ動作の確認。ホクセイサーキットでスタート直後にサーボが壊れ、1周もできないままのレースなんて絶対にいやだ!私の力からして、最低でもハチさんが走る1/64Bファイナルまでは勝ち上がるんだ!あわせて細部に至るまで、ビスの閉め忘れがないか、曲がっているところはないか、チェックする。手持ち無沙汰なtamaさんに、NEWボディのウインドウ部分のカットをお願いする。だってこれまで使ってきたボディーはかなり痛んでおり、もしも3位内に入って車検を受けたときに、ボディが原因で失格になったんじゃ話にならない。イヤそうな顔ひとつせず、見かけによらず?丁寧に心を込めてカットしてくれるtamaさん。「誰が見かけによらずじゃぁ〜!」と怒られそうだけど・・・。
いつもBBSとかじゃ、けちょんけちょんにtamaさんにいじめられている私だけど、その言葉には、とっても温かさを感じる。これがtamaさんじゃなかったら、ボコボコにしてるとこだけど、こんな私でもtamaさんが認めてくれている証拠である。だからtamaさんにいつもの仕返しで、ボディのカットをお願いしたんじゃない。もちろん時間がなかったこともあるのだけど、tamaさんの"気"が入ったボディを味方につけ、決勝レースを戦いたかったというのが本音。完璧なまでにきれいに仕上がったボディ。ゼッケン5もtamaさんが貼ってくれた。イヤな顔ひとつしたけど、ありがとう!tamaさん。
1/256Bファイナルに出場する私と山崎さん。トシゾー店長は山崎さんのナビに、私のピットはtamaさんにお願いした。決してtamaさんを走らせることのないように!なんて思ったから、あんな結果になったのかも・・・。
1/512Bファイナルのスタート時間が近づく。KEIさん&ハシモトくんが準備を進め、車をピットに運ぶ。そしていよいよ決勝レースが始まるのだ!と思いきや、予定の9時が過ぎてもレースは始まらない。車に積んだポンダーまで回収される。「何かのトラブル?いったいどうしたんだろう?」「まさか、ポンダーの充電を忘れてたんじゃないだろうねぇ?」。いろんな憶測が飛び交うものの、30分たっても何のアナウンスもない。その間、みんなパドックに戻ってくるも、ただ一人、KEIさんはまだコントロールタワーの上にいる。「もしかして、上で固まったまま、降りられないんじゃないの?」とだんだん心配になる私たち。40分過ぎ、ようやくKEIさんがパドックに戻ってくる。「どうしたん?KEIさん。上で緊張のあまり、失神してるんじゃないかと思いましたよ〜」と私。失礼なこと言って、すんませんでした。
予定より50分遅れて、1/512Bファイナルがスタート。必ずや二人が勝ち上がると信じ、私はパドックでフロントの周りの樹脂パーツを金属パーツに交換。昨日の5回目の予選で、クラッシュした際、もしかすると目に見えないクラックが入っているかもしれないと思ったからである。スタートが遅れたということは、私にとって全て追い風のように思えた。入念なチェックもできたし、すべきことは全部やれた。気持ちも充実している。あとは、シナリオ通りに勝ち上がっていくだけだ!
tamaさんが心を込めて仕上げてくれたボディが完成。新しいボディでレースに望むため、車検場に持っていき、チェックをうけようとした私。「あんたなぁ!このボディ、チェック受けてねぇじゃん!そんなボディ付けて走ったって、ダメだよ!失格!」なんて言われたらもともこもない。
「すんません。新しいボディにしたんで、チェックお願いします!」と私。が、しかし、車検場では、他の車の燃料タンクの容量チェックをしている。これが、のんびりしているというか、確実にしているというか、私が待っているのに、ぜんぜん急がない。そうこうしているうちに、1/512Bファイナルが終わってしまった。
KEIさん、ハシモトくんの活躍を見ることなく、ず〜と車検場にいた私。残念ながら勝ち上がることはできなかったが世界戦の決勝レースを走った二人。きっと満足したことだろう。間もなく、上位3台の車検が始まってしまった。当然、私の車は後回し。これまた入念にチェックする係員。1位でゴールした車だったか、ウレタンバンパーがクラッシュにより規定の35mmないことが発覚。係員はチームマネージャーを呼び、「失格だ!」と告げる。とうぜんチームマネージャーは「あんたなぁ、冗談じゃねえで!最初はちゃんとあったんじゃけど、レースでこんなん、なったんじゃねぇな。そらぁ、しかたねえち言うもんで!」と食い下がるも、聞き入れてもらえず、その選手は残念ながら失格となったのであった。
これが世界戦の厳しさなのか!オフィシャルもプライドを持って世界戦に望んでいるのだ。なあなあじゃすまない、遊びじゃない、れっきとしたモータースポーツなのだ!
と感心している場合じゃない。オレの車はどうなってるんだ!急いでくれ〜!それじゃなくても気が短い私。だんだんイライラしてきた。結局、待つこと30分。係員は、そっここ見ただけで笑顔で「OK〜!」なんて言って、車を渡してくれた。「えぇ〜?車検のシールは貼らなくていいの?」と身振り手振りで尋ねるが、「OK〜!」とまた言われる。いったいこの30分はなんだったんだ・・・・。
予想外の時間を費やしてしまい、エンジン調整もできぬまま、私と山崎さんが走る1/256Bメインまであと5分!私の勝ち上がりのシナリオには、こんな展開はなかった。そうおせっかち野郎へと変身するシナリオに、いつの間にか差し替えられていたのであった・・・。
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